大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)4268号 判決 1968年2月28日
原告 増田正直
右訴訟代理人弁護士 段林作太郎
被告 神戸市
右代表者市長 原口忠次郎
右代表者弁護士 安藤真一
同 奥村孝
同 阿部清治
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、申立
原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金一二〇万〇、七五〇円及びこれに対する昭和三九年九月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。
第二、主張
(請求原因)
一、別紙図面甲図に関する請求
(一)、原告は、大阪府豊中市稲津町一丁目一番地田五八一・八一平方メートル(五畝二六歩)、同町一丁目一番地の二田六一八・一八平方メートル(六畝七歩)、同町一丁目一番地の三田四九二・五六平方メートル(四畝二九歩)を所有している。
(二)、被告は、昭和三九年七月四日から、訴外真柄建設株式会社に請負わせて、不法にも原告所有前記三筆の土地のうち別紙図面甲図記載ABCハAの各点を直線で結んだ長方形の土地(三八坪七五)の地下に工業用水道管を埋設する工事にとりかかり、甲図イロハニホイの各点を直線で結んだ土地(一五九坪五三)に立入り、BC点を結んだ直線部分に鉄矢板を打込み、二級国道大阪福知山線に沿った土堤(甲図イホ点を結ぶ線上)を切崩した。そこで原告は被告に工事の中止を求め、さらに豊中簡易裁判所に同月一四日現状維持の仮処分を、同月一七日工事停止の仮処分を申請したにもかかわらず、被告はこれを無視して、前示ABCハAを結んだ土地の地下三間の所に直径一〇尺のコンクリート製ヒューム管を埋設し、同年八月中旬頃にその工事を完了した。
(三)、右工事のためABCハAの部分の地下には永久的施設である被告の直径一〇尺のコンクリート製ヒューム管が埋設され、しかもその部分に被告が訴外真柄建設株式会社をして国道大阪福知山線沿いの土堤を切崩した土砂及び北側市道付近にあった石塊をまき散らさせ、さらに他所から荒土、土砂を搬入せしめ従前より三尺高く積上げたため、従前は原告が田として水稲耕作をして来たものが耕作できず、従前の田に回復することが不能となった。この損害の額は、一坪当り二五万円相当であるからABCハA三八坪七五分では九六八万七、五〇〇円にのぼるところ、そのうち九六万八、七五〇円を本訴において請求する。
(四)、被告は、右工事中同所から堀削にかかる揚土及び湧出した悪水をその南側(甲図ハニホ線より南)の原告所有地(前記(一)の三筆の土地の一部分)たる田一、六三一・七六平方メートル(四九三坪六一)に投入及び放流したため、この南側の田は水稲耕作が不能となった。この土地では水稲耕作によって通常米五石の収穫(一反当り三石の収穫)が得られるものであるが、これに相当する(この時の政府買上価格は一石当り一万五、〇〇〇円である)七万五、〇〇〇円の得べかりし利益を喪失した。
(五)、原告は、本件工事が始まるまでは、国道大阪福知山線の東側にある公有水路から同国道下を経て西側の市道(甲図イロ線の北側の道路)下のコンクリート土管を通って、市道にある会所(マンホール)からコンクリート土管で前記(一)記載の三筆の田にかんがい用水を引いていたのであるが、本件工事によってその通水を阻止された。このため原告は、新たに市道上の会所(マンホール)から甲図ハニ線上に至るまで二四・五〇メートルにわたって内径一尺のヒューム管を設置して利水を図らねばならなくなった。これには工事費としてヒューム管一二本分代金三万六、〇〇〇円及び土工人夫八人分賃金二万円合計五万六、〇〇〇円が必要である。
(六)、被告は、本件工事をした際、原告がその所有に係る豊中市稲津町一丁目一番地の五宅地六六・一一平方メートル(二〇坪)に設置していた同町一丁目一番地の四の土地と一丁目一番地の五の土地との境界線を示す木柵を故意に破損した。この木柵を新たにつくるには棒杭七本(一本一〇〇円)及び横板(三〇〇円)が必要であり新築に要する費用計一〇〇〇円は被告が負担すべきものである。
(七)、よって原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として前記(三)(四)(五)(六)合計一一〇万〇、七五〇円の支払を求める。
二、別紙図面乙図に関する請求
(一)、被告は、昭和三九年二月ころ、訴外株式会社西尾工務店をして豊中市稲津町一丁目二番地乃至七番地に於て工業用水道管の敷設工事をさせた際、この工事によって湧出した悪水を流すため原告所有の豊中市稲津町一丁目一番地の五宅地六六・一一平方メートル(二〇歩)のうち北側部分(南北二尺、東西三間の長方形の部分)を、所有者である原告に無断で掘り下げ排水路を作り、この排水路を通じて悪水を原告所有の田同町一丁目一番地、一番地の二、一番地の三合計一、六三一・七六平方メートル(四九三坪六一)に放流しこの田を浸水せしめた。
(二)、このため同田は泥沼と化し、耕作するのに従来以上の労働を必要とし、耕耘機による耕作の費用、人力による地均しの労賃及び水稲植付の労賃合計二万五、〇〇〇円の特別の出費を余儀なくされた。
及汚泥によって土質が悪化し、このため従来は一反当り米四石の収穫があったのに、一反につき米一石の割合で合計米一石七斗の減収を余儀なくされ、この年の米価が一石一万五、〇〇〇円(政府買上価格)であるから、米一石七斗の価格二万五、〇〇〇円以上の損害をこうむった。
(三)、よって、原告は被告の不法行為のため五万円の損害をこうむった。
三、別紙図面丙図に関する請求
(一)、被告は、昭和三八年六月頃、訴外株式会社西尾工務店に請負わせて豊中市大字穂積地内において工業用水道管の埋設工事をさせた際、その工事に従事した土砂運搬用トラックが別紙図面丙図記載の排水路のうちHIJKHを直線で結ぶ部分に土砂を落下させ、かつ同トラックが同部分に後退して排水路を閉塞し、よって同水路を流れるべき付近住宅地からの汚水を逆流させ、同水路の北方に位置する原告所有の豊中市服部寿町(旧町名は穂積)一丁目六二七番地の一田六七七・六八平方メートル(六畝二五歩)に流入せしめた。
(二)、汚水の流入停滞によってこの田の土質が悪化し、この年水稲の植付けをしたが収穫は皆無であった。従来この田からは米三石の収穫があったのであるから、原告は米一石一万五、〇〇〇円として米三石分四万五、〇〇〇円の損害をこうむった。
またこの田に汚水が停滞し悪臭に悩まされ、金五、〇〇〇円の損害をこうむった。
(三)、原告は被告の不法行為によって計金五万円の損害をうけた。
四、そこで原告は被告に対し、以上合計一二〇万〇、七五〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和三九年九月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
≪以下事実省略≫
理由
一、原告が、もと、別紙図面甲図イロハニホイを直線で結ぶ土地を含めて豊中市稲津町一丁目一番地田五八一・八一平方メートル(五畝二六歩)、一丁目一番地の二田六一八・一八平方メートル(六畝〇七歩)、一丁目一番地の三田四九二・五六平方メートル(四畝二九歩)を所有していたこと、その後右イロハニホイの部分の土地について建設大臣が豊中都市計画街路豊中吹田線の用地として訴外大阪府のために収用する旨の裁定をなしたこと、大阪府収用委員会が昭和三九年六月一九日右部分の土地の損失補償について裁定をなしたこと及び大阪府が同年七月二日大阪法務局豊中出張所に右部分の土地を豊中市稲津町一丁目一番地の九(一七八・五一平方メートル)、一番地の一〇(一〇五・七八平方メートル)、一番地の一一(一四二・一四平方メートル)とする分筆登記並びに大阪府への所有権移転登記を申請し、その旨登記されたことは当事者間に争いない。
二、原告は、前記建設大臣の裁定及び大阪府収用委員会の裁決を当然無効であると主張するので、この点について判断する。第一に、原告は豊中都市計画街路豊中吹田線に関する都市計画事業について都市計画法第三条所定の内閣の認可がなされていないというが、都市計画法第三条の規定による内閣の認可については、昭和一八年勅令第九四一号都市計画法及同法施行令臨時特例第二条第一項第一号、昭和二二年法律第七二号日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力に関する法律によって内閣の認可をうけることを要しないものとされている。したがって、原告の主張は採用できない。第二に、原告は都市計画事業による土地収用についても土地収用法第二九条の適用があると主張するので、以下この点について判断する。都市計画法第一八条第一項は、「前二条の規定による収用又は使用に関しては本法に別段の定ある場合を除くの外土地収用法を適用す。」と規定しているので、都市計画法第一六条の規定による収用につき、土地収用法第二九条の適用があると解すべきか否かについて検討する。まず、同条の立法趣旨は、事業の認定によって起業者は収用権を取得し、その反面起業地の区域内の土地所有者等に対し所有権等が将来収用されることもあり得る不安定な状態を招来するので、起業者が事業の実施に至るまで長年月を要しないのが一般であるにもかかわらず、この実施に着手せず右の不安定な状態をあまりに長く放置するのは適当でないとする等にあると解される。一方、都市計画法第一九条の規定によって、道路等の施設に関し土地収用法第二〇条の事業の認定とみなされる都市計画法第三条の都市計画事業決定は、都市全般に対し総合的な一定の計画、すなわち都市計画(同法第一条)を公定すると同時にこの広汎な計画を実現するため将来実施すべき道路その他の施設に関する事業計画を決定するものである。したがって都市計画事業決定の執行・実施は、土地収用法の事業の実施の場合と異なり、都市計画全般とも関連して相当長年月を要することを予定しているのである。とすると(都市計画事業決定が土地所有権の一定の制限((同法第一一条同法施行令第一一条、同法第一〇条建築基準法第四四条二項等))をもたらすにしても)、もしも都市計画事業決定を土地収用法第二〇条の事業の認定と同一視すべきものとして同法第二九条を前者について適用するならば、長年月を要することが予定されている都市計画事業は目的を達成することができなくなるであろう。してみると同条は前示立法趣旨に照らして都市計画事業決定に適用すべきではないと解するほかはない。次に、都市計画法第一九条の規定が都市計画事業の認可をもって、土地収用法第二〇条の事業の認定とみなしているのは、事業の認可があれば重ねて事業の認定を受けることを要せずにこれと同一の法律効果、すなわち収用権を生ずるものとする趣旨であって、事業の認定が存在するものとみなすものではない。すると後者の存在を前提とする同法第二九条を適用する余地はないと解すべきである。したがって同条の適用を前提とする原告の主張は採用に値しない。第三に、原告は大阪府収用委員会の裁決書には収用の時期が明らかにされていないから裁決は無効であるという。≪証拠省略≫によれば裁決書に収用の時期が定められていないことが認められる。公益事業の用に供するため土地収用法によって土地を収用する場合には「収用の時期」も必ず裁決しなければならない(改正前の同法第四八条第一項第三号)のであるが、本件土地収用が都市計画法第一六条の規定によって行われたものであることは原告主張自体明らかであり、この場合には主務大臣(本件では建設大臣)が収用(収用の時期も含む)の裁定をなす権限を有し、収用委員会は土地の収用そのものについては裁決する権限を有せず、単に損失の補償について裁決する権限をもつだけである(昭和三九年法律第一四一号による改正前の都市計画法第二〇条)から、大阪府収用委員会が本件において収用の時期について裁決しなかったのは当然のことであり何等の違法はない。第四に、原告は前記裁定を不服として審査請求ならびに行政訴訟を提起したにもかかわらず大阪府収用委員会がこれを無視して損失補償についての裁決をするに至ったことを行政不服審査法第三四条、第四〇条に照らして違法というが、建設大臣のなした処分について審査請求することは同法第五条第一項第一号但書によって許されないのであり、また大阪府収用委員会は収用裁定の処分庁たる建設大臣の上級行政庁でもなければ審査庁でもないから原処分の執行停止あるいは原処分の取消をなす権限を有せず(同法第三四条第二項以下、第四〇条第四項以下)、起業者から申請があった場合に裁決をしない自由(裁量権)が認められてもいないのであるから、原告の主張は採用できない。以上の原告の主張はすべて失当である。
次に原告は建設大臣及び大阪府収用委員会に不服申立をしたから土地収用の効果はいまだ発生していないという。≪証拠省略≫によると、原告は大阪府収用委員会のなした裁決について昭和三九年七月八日建設大臣に審査請求をなし、又その頃大阪府収用委員会に対して不服申立の書面を送付したことが認められる。しかし、前記裁定及び裁決は行政処分として公定力を有し、異議申立及び審査請求はいずれも当然には処分の効力を停止しない(同法第三四条一項、第四八条)のであり、しかも前記処分について執行停止がなされたという主張立証はないのであるから原告のこの点に関する主張は採用できない。
そうだとすると建設大臣のなした土地収用の裁定ならびに大阪府収用委員会のなした損失補償の裁決はいずれも有効であり、≪証拠省略≫によれば、建設大臣のなした収用の裁定は収用の時期を大阪府収用委員会による損失補償の裁決があった日から起算して一五日目とすると定めており(損失補償に関する大阪府収用委員会の裁決が昭和三九年六月一九日になされたことは当事者間に争いない)、原告は同年六月三〇日に大阪府収用委員会の裁決にかかる損失補償金二、一五三万六、五五〇円を大阪府から受領していることが認められる。なお原告は右金員を損失補償金としてではなく、仮払いの預り金として受領したにすぎないと主張し、≪証拠省略≫によれば領収証に「一応受領」なる文言が記入されていることが認められるから原告が異議あることを留保した上で受領したことが窺えるが、弁済は法律行為ではないから、債務の本旨に従った給付がなされた以上債権者が異議を留めたからといって弁済(損失補償金の支払い)の効果を生じないというものではない。以上の事実によれば、同委員会の裁決の日から一五日目の昭和三九年七月三日に土地収用の効果が発生し、原告は同日甲図イロハニホイの部分の土地の所有権を喪失したものといわなければならない。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
三、別紙図面甲図に関する不法行為について
(一)、請求原因一、(三)の損害は、原告の土地所有権を侵害されたという主張であるが、前示のとおりこの土地は収用によって大阪府の所有に帰したものであるから原告の主張は採用できない。
(二)、請求原因一、(四)の事実について。被告が昭和三九年七月四日から甲図ABCハAの部分に工業用水道管を埋設する工事にとりかかり、同年八月に至ってその地下にコンクリート製ヒューム管を埋設したことは当事者間に争いない。≪証拠省略≫によれば右工事は真柄建設株式会社が被告の指示を受けて施行したものであることが認められる。≪証拠省略≫中には、真柄建設が右工事中に甲図ABCハAの部分から湧出した水をポンプを使ってくみ上げホースを通して甲図ハニホ線の南側の原告所有の田(昭和三九年七月二日分筆後の豊中市稲津町一丁目一番地、一番地の二、一番地の三)に放流したこと、この田にはその頃稲が植えてあったが放流のため水没しこの年は稲が育たず収穫がなかったことを窺わせる部分がある。しかしながら証人堀岡昭三は、真柄建設が右工事をした際湧水はポンプを使って国道大阪福知山線沿いの側溝に流し込んだもので原告所有の田には流していないこと、原告所有の田は真柄建設が工事にとりかかった昭和三九年七月四日にはすでに水が溜っており同証人は田ではなく池だと思っていたこと、工事中に掘取った土砂は自動車で他所へ運んで捨てたこと、この工事の前に付近では真柄建設が取扱った工事だけでも大阪池田線道路改良工事と阪神水道企業庁の水道管埋設工事がなされていたことを証言しており、又≪証拠省略≫のうちNo.3、No.4の写真は本件工事による掘削が始まる前の現場の写真であるが、これによれば当時すでに原告所有の田には水が溜っていることが認められる。この証言ならびに写真に照らして、原告本人尋問の結果中真柄建設が湧水を原告所有の田に放流したという部分は措信できない。≪証拠省略≫によっても原告主張の事実を認めることはできず、他にこの事実を認めるに足る証拠はないから請求原因一、(四)の主張は採用できない。
(三)、請求原因一、(五)の事実について。原告本人尋問の結果によれば、原告は大阪府によって甲図イロハニホイの部分の土地が収用されるまでは、国道大阪福知山線の東側の水路から同国道の下を通って西側の市道(甲図イロ線北側の道路)下のマンホールに至る水路があるので、そのマンホールからコンクリート土管の分筆前の(甲図イロハニホイの部分を含んだ)豊中市稲津町一丁目一番地、一番地の二、一番地の三の田にかんがい用の水を引いていたことが認められる。≪証拠省略≫を総合すれば、被告が工事に着手した昭和三九年七月には甲図イロハニAイの部分は田ではなくすでに土砂で埋立られていたのであり、原告主張のマンホールから分筆後の一番地、一番地の二、一番地の三の田にかんがい用の水を現にひいていたわけではなく、被告の工事によって通水が阻止されたのでもなく、もし原告に大阪府の収用した土地を通って分筆後の一番地、一番地の二、一番地の三の田にかんがい用水をひくことができる何らかの権原があるのであれば本件工事後といえども新たに用水路を設けることは可能であり、本件工事によってそれが困難になったものではないことが認められる。他に、被告の工事によってかんがい用水がひけなくなったという原告の主張を認めるに足りる証拠はない。従ってこの点に関する原告の主張は採用できない。
(四)、請求原因一、(六)の事実について。原告本人尋問の結果中には、豊中市稲津町一丁目一番地の五の北側境界付近に立入を禁ずるために原告が高さ約三尺長さ約三間に亘って木の杭八本に横板を打ちつけた木柵を設置していたところ、真柄建設が原告に無断でこれを取去ってしまった旨の供述がある。また≪証拠省略≫にも略原告主張の如き木柵があることが認められる。しかしながら証人堀岡昭三は本件工事中に甲図Cハ線付近に木柵があったが、真柄建設では木柵はこわしていないと証言しており、この証言に照らして、原告本人尋問中真柄建設がこの木柵を取去ったという供述は措信できず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。
四、別紙図面乙図に関する不法行為について
被告が昭和三九年二月ころ豊中市稲津町一丁目二番地乃至七番地において工業用水道管の埋設工事をしたことは当事者間に争いない。≪証拠省略≫によれば、この工事は株式会社西尾工務店が被告の指示のもとに工事を施行したものであることが認められる。原告本人尋問の結果中には、西尾工務店はこの工事の際原告所有の稲津町一丁目一番地の五の宅地の北側部分を掘って原告所有の一丁目一番地、一番地の二、一番地の三(いずれも昭和三九年七月二日分筆登記前のもの)へ通ずる排水路を作り、工事中に湧出した悪水を右の田に流し込んだ旨の部分がある。しかし≪証拠省略≫によれば、この工事の施行された稲津町一丁目二番地乃至七番地では乙図GD線付近にコンクリート製の側溝があり、工事中に湧出した水はポンプで汲み上げてホースでこの側溝に流していたこと、この側溝は東側一丁目一番地の方向ではなく反対に西側阪急電鉄宝塚線の軌道の方向に向って水が流れるようになっていたこと、被告の指示に基いて真柄建設では側溝の水が東側へ逆流しないように予め一丁目一番地の三の手前(西側)で側溝に土を入れてせきとめて工事にかかったこと、この工事中の或る晩何者かによって、せき止めていた部分が破壊され排水が東側の一丁目一番地の三の田へ流入するように仕むけられたため一晩原告の田へ水が入ったことがあること、原告の田へ水が流入したのはその晩一回だけであったことが認められる。この事実に照らすと原告本人の前記供述部分は措信し難い。もっとも、何者かの行為の結果、一回だけは原告の田に流入したこと右認定のとおりであるが、これによって原告の田が泥沼と化し土質が悪化したとは考えられないし、またこれを認むべき証拠もない。
五、別紙図面丙図に関する不法行為について
被告が昭和三八年六月頃豊中市穂積地内で工業用水道管の埋設工事をしたことは当事者間に争いない。≪証拠省略≫によれば、この工事は被告の指示のもとに西尾工務店が施行したものであることが認められる。≪証拠判断省略≫。≪証拠省略≫によれば豊中市服部寿町一丁目六二七番地の一の田は、昭和三八年二月頃にはすでに水につかっており、西尾工務店が被告の指示により工事にとりかかった同年六月頃も引続き水没しており、工事中に原告から抗議をうけたので被告が丙図HIJKHの水路を掃除したが、原告の田から水はひかなかったことが認められる。この事実によれば、丙図HIJKHの水路が埋ったため前記田が水没したという因果関係は認められない。≪証拠判断省略≫従ってこの点に関する原告の請求は理由がない。
六、以上明らかなように、原告の請求はすべて理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山内敏彦 裁判官 藤井俊彦 井上正明)
<以下省略>